東北大学電気通信研究所の白鳥則郎教授

開発したのは、日本の大学だ。具体的には、東北大学電気通信研究所の白鳥則郎教授(コミュニケーション・ネットワーク専門)のグループである。2005年7月に発表された。

インターネットの国際標準化組織(IETF)

インターネットの国際標準化組織(IETF)がこの技術を世界標準の規格として採用した。

この技術を組み込んだエアコンやテレビなどの情報家電が普及することで、外出先からスマホや携帯電話でネットを通して、これらの情報家電を遠隔操作することが可能になるとされた。

IPv6

21世紀に入って、ネット利用が急速に普及した。ネットに接続しているコンピューターを識別するため、1台ずつ割り当てられたアドレス数の不足が懸念されていた。

これを解消し、事実上無限のアドレスを利用できるのが、通信規格「IPv6」だった。IPv6では、スマホや携帯電話のような移動端末との接続が想定されていなかった。

仙台市内のソフト会社と共同開発

この点に、白鳥教授が着目した。そこで、世界中どこに移動しても途切れずに情報通信サービスが受けられる新技術「モバイル-IPv6 MIB」を開発した。仙台市内のソフト会社「サイバー・ソリューションズ」との共同開発だった。

モバイル-IPv6 MIBの技術を活用すると、不正アクセスしたパソコンを世界中どこからでもただちに追跡可能になった。従来は、容易に把握できなかった。

スマホで家電の遠隔操作

新技術の実用化は「IPv6」の普及が前提だった。開発された当時、実用化は約5年後と推定された。

この技術を組み込んだ情報端末を渡り鳥に装着すれば、世界中どこからでもネットを使って、鳥の渡りのルートを正確に把握することも可能になると期待された。

白鳥則郎(しらとり・のりお)氏とは

略歴

白鳥則郎(しらとり・のりお)氏は1946年5月11日、宮城県南方町生まれ。東北大大学院博士課程修了。同大工学部情報工学科教授を経て、1993年から東北大電気通信研究所教授。米国で世界初のコンピューターが誕生したその年に生まれた。学生時代は、コンピューターのネットワーク化が始まった時期と重なる。

共同研究

東北大、UCLA(米国)など7つの大学と企業で構成するソフトウエアなどの研究・開発グループの代表を務めた。通産省(経済産業省)の外郭団体が募集した「創造的ソフトウエア育成事業」の支援対象になり、1996年から共同研究を行った。

エージェント(代理人)

共同研究のテーマは「インターネットによる教育・会議のためのやわらかい発想支援環境」。コンピューターネットワークの中に、人間の手助けをする人間の分身のような機能をつくる。この機能は「エージェント(代理人)」と呼ばれ、次世代ソフトウエア技術の中核になると目された。コンピューターを操作する際の利便性を向上させ、いつでも、だれでも、どこからでも情報を送受信できることを目指した。

コラム執筆歴

『宮城論壇』

1998年5月4日付の朝日新聞朝刊(宮城県版)の『宮城論壇』にコラムを投稿した。この中で「高度情報化社会においても、あくまでも人間が主であり、情報通信は従である。決して、その逆ではない。世の中から遅れまいとして、人間の視点を忘れ、あわてて情報通信を導入すると、必ず失敗する」と指摘した。

『論壇』

1999年1月27日付の朝日新聞朝刊(全国版)オピニオン面の『論壇』にコラムを投稿した。同年初頭の伝言サービス事件などをふまえ、「インターネットには光と影の両面があり、それといかにつき合うかが問題」と指摘。「現実世界にいる人間にとって、インターネットは仮想世界を提供してくれる便利な道具である。光と影をあわせ持つインターネットと共生する知恵を一人ひとりがいかに身につけるかが、新世紀に健全な情報化社会を構築するためのかぎである」と訴えた。